免疫ミルクの力
熱中症になったフクちゃんは、自分で体を動かすパワーが弱まり、気力も下がってしまいました。点滴をしても今までのようにスムーズには動けません。
いつも背筋をピンとしていたフクちゃんが、椅子に座っても背を丸めて、力なく腰掛けている姿となりました。
薬局で売っている免疫ミルク(スターリミルクゴールド)は、友人のお母様が体調を崩したときに飲用して元気になった、と聞いていたので私も買ってみました。
全ての人が飲めるものではありませんが、フクちゃんにはとても合っていました。
毎日一回、粉ミルクのように水で溶いて飲んでもらいました。
一週間後 声に張りが出てきました。
二週間後 怒りのパワーが出てきました。不平や不満を口に出してきます。力が戻るとまず、怒りのエネルギーが出るのですね。
三週間後 気遣いの言葉が出てきました。人間らしいコミュニケーションが戻ってきました。
一ヶ月後 電車に乗り2時間半かけてtorako宅へお出かけします。
何もしなくても、軽い熱中症は回復するのかもしれませんが、免疫ミルクの力でより早く元気になれたような気がします。しなびて、うなだれているような花が、水を得てグングンと体を持ち上げてピンとした上向きの花になるような、そんな感覚を持ちました。驚きと喜びと感謝で一杯になりました。
この後も一日一回飲み続けてもらいました。
我が家にも常備して、疲れて元気の出ないとき、体調を崩したときに飲むようになりました。
老人ホームを体験する。
いくつかの有料老人ホームを見学して一つの所に決めましたが、満室の為に空きが出来たら入居する予約をしました。
すると、思いがけなく早くに連絡が来ました。希望の部屋ではありませんでしたが入居を決めました。
フクちゃんの服など、1週間分をスーツケースに入れて、一緒に電車に乗って施設に到着。フクちゃんに「ここで泊まってね」と言うととても不安そうです。
入居後、施設から電話が有り、毎日荷物をまとめています。と様子を教えて頂きました。
三日後に様子を見に行くと、「いつまでここにいるの?早く帰りたい!」と今まで見たことがない悲愴な面持ちのフクちゃんです。
ショートステイの穏やかな1週間とは比べものになりません。
「もう少し待っててね」と心を鬼にして言いました。
しかし、実際に施設の中に入ると施設の印象が随分と違って見えます。
職員間の人間関係が良くないみたいです。
入居者さんがリビングで座っているだけで、誰も話していません。
廊下に飾られた作品を見ていると、人懐っこいお婆さんが身振り手振りで、これは私の作品よ、と伝えてくれました。
もしかすると元々声の出ない方だったのかもしれませんが、ここにいたら、おしゃべり好きなフクちゃんが声を出せなくなる。声帯は使わないと衰えるのが早いと聞いています。と恐ろしいことを考えてしまいます。
弟君も心配していて、週末に様子を見に行くと連絡がありました。
私は思いきって、週末に来たときにフクちゃんを自宅に連れ帰ってほしいと頼みました。
施設には1週間の体験入居ということにして頂き、希望の部屋が空いたら連絡をしてください、とお願いしました。
そして、フクちゃんは自宅に戻り、今まで通りデイサービスに通う日々となりました。
紹介所の方からは、慣れるのに一ヶ月は掛かります。1週間は早過ぎますと言われました。
でも、尋常じゃないフクちゃんの心の叫びが、私に決断をさせたのです。
親の住まいを決めること
フクちゃんが熱中症になった事で一人暮らしに限界を感じました。
弟君やケアマネージャーと色々と話し合いました。
- 今のまま自宅で暮らす。
- torakoの家で暮らす。
- 施設入居する。
1.自宅で暮らすには、ヘルパーさんを増やして食事、室温の管理、薬の見守りが必要になります。ケアマネージャーさんのおすすめです。マイナス要素としては、今回のように何かあった時にすぐに駆けつけられない。最悪、自宅で亡くなることを覚悟しなければなりません。その覚悟は持てませんでした。
2.torako宅で暮らすのは安心ですが、フクちゃん用の部屋を増築しなければならない。土地勘がないところで、外出が好きなフクちゃんは、きっと徘徊、迷子となる可能性が高いので、torakoは仕事を辞めなければ見守れない。
弟君が反対しました。
3.施設にも色々ありますが、要介護2なので、特養の施設には入れません。認知症グループホームか有料老人ホームとなります。熱中症になり、栄養に偏りが有ることが発覚したので、栄養管理、看護師や医師のサポートを受けられる有料老人ホームが望ましい。
ということで、torakoの家の近くで探すことにしました。
老人ホームを紹介してくれる所に連絡して、いくつかのパンフレットを送って頂きました。その中から見学先を見つけました。見学には紹介所の方が同伴してくださり、プロとして、鋭い質問もしてくれました。心強いです。
でも、心に引っかかるのは、住まいを決めることって一大イベントのような気がします。これから数年間暮らす部屋を、親の好みもよくわからないのに勝手に決めて良いのでしょうか。しかも、本人には入居することは内緒です。相談したいけれどどんな反応をするのか怖くて言えません。騙して連れて行くことに、心苦しさと罪悪感で一杯です。見学するたびに涙が溢れてしまいます。
熱中症になった!
温暖化によって、命の危険を感じるほど暑くなってきた日本では、毎年、熱中症で高齢者が亡くなるというニュースが流れます。
その年は、7月になってもエアコンをつけないフクちゃんでした。窓を開けて扇風機で大丈夫と言います。気温の変化を感じにくくなっているのでしょうか。
そんな時、ケアマネージャーから連絡がありました。デイサービスの方から脱水の疑いがあると報告があったそうです。
週末にフクちゃん宅へ行き、ペットボトルのお茶や水、経口補水液を沢山買い、冷蔵庫に入れて帰りました。フクちゃんは、見た目にはあまり変わりないようでした。
二日後、ケアマネージャーがフクちゃん宅を訪問すると、立ち上がりにくくなっていました。torakoに連絡があり、点滴が必要なので病院で待ち合わせをすることになりました。
torakoが病院で待っていると、タクシーに乗ったフクちゃんが到着。その後ろから自転車に乗ったケアマネージャーが必死に追いかけて来ました。有難いです。
脱水は、口から水分を入れても体が受け入れないので、点滴が必要だそうです。知りませんでした。
フクちゃんは軽症でしたが、一人では心配なので、torakoと弟君で夏休みを利用して1週間泊まり込む事になりました。その後の1週間は初めてのショートステイを利用しました。
ケアマネージャーとその後のケアについて、話し合いました。
栄養に偏りがあるので、熱中症になった可能性があるため、栄養バランスの良い宅配弁当を頼むことにしました。
まだ、ふらつきがあるので、玄関や寝室にレンタルの手すりを取り付けました。
介護認定を申請して、要介護2となりました。
薬局で購入した、免疫ミルク(スターリミルク)を毎日フクちゃんに飲ませると、みるみる元気になっていきます。驚くほど回復していきました。価格はちょっと高いですが毎日の習慣になりました。
次の夏は、一人暮らしは無理かな、いよいよ施設入居を真剣に考える事になりました。
成年後見制度
自分で発注して、契約をしてしまうフクちゃん。
これ以上の高額支払いや、騙されて何かを契約する可能性を心配しています。
成年後見制度を使うと、そんな契約を解約することが出来るのでしょうか?
弟君に相談をしましたら、すぐに動いてくれました。
まずは、家庭裁判所へ行き、講習を受けます。
親の財産一覧、医師の診断書等を、提出して弟君の申請をしました。
詳しく聞くと、成年後見制度は、法定後見制度と任意後見制度の2種あります。
フクちゃんは認知症なので、法定後見制度となります。これは、更に3段階(後見・保佐・補助)あり、対象者の状態によって決まります。
年に一度収支報告書を提出して、財産の管理がキチンと出来ているか見てもらいます。
後見人が弟君になるかどうかは、審査によって決まります。後見人へ報酬も支払います。
また、この制度は対象者が死亡するまで、やめることは出来ません。
死亡した時は、第三者の後見人を選出して公平に財産分与をする事もできるそうです。
無事、弟君が後見人(保佐)に任命されました。
フクちゃんの財産をどう使っていくかを、改めて話し合いました。
後見人の報酬はなしで良いと言ってくれました。有難いです。
その後、フクちゃんは変な契約はしませんでした。
我が家は、親のお金を当てにしている人はいないので、果たして後見人までする必要があったのか分かりませんが、お金の管理をクリアにすることで、色々な契約や支払いについて、常に相談して進めていくことが出来ました。
高額支払い?
フクちゃんの家は全部和室です。襖や障子、畳を定期的に新しくしていましたが、高齢になり、何年も新調していませんでした。その事をズーと気にしていたフクちゃんは、チラシを見て自分で注文をしてしまいました。
ある夜、torakoに電話が入ります。フクちゃんからです。「今ね、障子と襖が全部無いの。もっていっちゃったから、2日位このままなの・・・」夜になり、カーテンのない家なので外から丸見えになった部屋で心細くなって電話を掛けてきたのです。
週末、フクちゃんの家へ行くと障子も襖も新しくなっていて一安心です。
事の経緯を聞いて、その費用を聞いてビックリ!!「エー、そんなに高額?」どうやって支払いをしたの?振り込み出来るの?疑問は膨らみます。
私はイライラが爆発しそうです。
一旦、台所へ入りフクちゃんの見えないところでブツブツと震える怒りを発散します。耳が遠いフクちゃんには聞こえません。
でも、気配は感じているみたいです。
思いっきり引きつった作り笑顔をして、フクちゃんのいる居間へ行くと、フクちゃんは怒られると思って上目遣いに私を見上げて様子を見ています。
私は煮えくりかえった気持ちを抑えながら「ハッハッハッ」とカタカナを読むような笑い声を出して、二人でお茶を飲みました。
すると、怒られないと思ったフクちゃんは少しほっとした様子です。
落ち着いたトーンで「フクちゃん、こういう事はちゃんと相談して下さいね、ハッハッハッ」と言うと、「そうだね!今回はダメだったね。これからはちゃんと相談するよ。バカ、バカ、バカ」と自分の頭をたたきます。
落ち着いて話せばわかってくれるんですね。怒りを抑えての笑顔は厳しかったけれど、これをきっかけにして、フクちゃんの前では笑顔スイッチを入れられるようになりました。気分はアイドル?です。
弟君が業者に問い合わせてみると、次の注文もしていることがわかりました。更に高額の畳表替えでした。それはキャンセルさせて頂きました。
ご近所の皆さんに感謝!
フクちゃんは30年以上住み続けた家に一人暮らしとなりました。ご近所の家は世代交代をしていたり、親を介護中だったりしています。
一人暮らしとなった認知症のフクちゃんを何かと気に掛けてサポートをしてくださっています。
ある朝、ご近所の方からtorakoに電話がありました。
「お母さんが家に入れなくなったけど、鍵は何処にあるの?」
どうやら、新聞を取りに家の外に出たら、なぜか玄関の鍵が下りてしまい入れなくなり、大騒ぎをしたらしいのです。
電話をつないだまま家の周りを見てもらいましたが、鍵もなく窓も開いていませんでした。別の方の家にフクちゃんを預かってもらって、torakoが駆けつけることになりました。2時間半掛かります。
やっと到着すると、フクちゃんは気持ちよさそうに居眠りをしています。
そのときの様子を伺うと、大声で「ドアを開けろ!」と何度も叫び、ご近所の皆さんが出勤前のお忙しい時間に出てきてくださいました。電話を掛けて鍵を探してくださったり、座布団を持ってきてフクちゃんを落ち着かせて下さったり、フクちゃんを預かって下さったり、皆さん総出で対応をしてくださいました。
夕方、改めてお礼に伺うと、みんなで見ているから大丈夫だよ。何かあったらメールでお知らせしますね。鍵を預かりましょうか。等々とても温かいお言葉を頂きました。
感謝で胸が一杯になり涙がでます。
その後も、フクちゃんは町の防災サイレンが鳴ると何事と聞きに行ったり、冷蔵庫がおかしいと言って見てもらったりしていました。
私には、メールで今日のご様子ですと連絡が来たり、週末に帰るとこんなことがあったよと話して下さいます。
いつまでも皆さんのご厚意に甘えてばかりはいられませんが、本当に素敵な方々に見守られて幸せです、感謝しかありません。
それから、民生委員さんも時々訪ねて下さっていました。私は一度しかお会いできませんでしたが、地域の為にご尽力されています。
私も住んでいる地域でこんな繋がりを持てるようになりたいです。